きものの世界では、上品、粋、格式、洒落など、普段は耳慣れない言葉が使われています。これらの言葉は、着物に内在する伝統的な日本の精神性や感性を表現する際に用いますが、昭和の頃まで、誰でも心のどこかに美意識として持っていたように思います。今では、その意味合いを説明できる人は少なくなりました。
「人の好みは十人十色」と言われるように、美しさや感性を現す程度には個人差があります。自分では上品のつもりでも、他人から見ればそうは思われない場合もあります。つまり、そこには、定量的で普遍的な価値が認められているわけではなく、そのことが、きものがわかりにくい一面にもなっています。
しかし今、「感性価値の創造」と言う大きなテーマが脚光を浴びてきました。発展途上国の安い労働力や先進国から移転された技術によって工業製品のグローバル競争は激しさを増すばかりです。そこで、従来のものづくりの価値軸(性能・信頼性・価格)に加え、新たな着眼点からの価値創造が必要となってきました。生活者の感性に働きかけ共感・感動を得ることができる商品やサービス。その要素が第四の価値軸「感性価値」と言われています。
電気製品、自動車、日本食など、世界を席巻した日本製品。その底流にあるパワーは日本人の繊細な感性です。その感性は、伝統工芸の各分野における手間を惜しまぬ匠の技、あくなき探究心から生まれたものです。中でも、着物や帯ほど感性価値が存在する商品はないでしょう。
きものを着ること自体は、そう難しいことでは有りません。着付さえ習えば誰でも着られるようになります。また、誰かに着せてもらっても着ることはできます。でも、それは、あらかじめ準備された着物、帯、小物などのコーディネート「着こなし術」があって初めて美しく着ることができるのです。きものは、他の日本製品と同様、世界一のファッションです。世界一なら、そのセンスは、そう簡単に習得できるものではありません。そう簡単に着こなせるハズなどないのです。
本書は、きものの美意識について基本的な感性を解説しました。また、すぐに役立つコーディネートのサンプル集として御利用いただけます。そして、カラーコーディネート、お手入れ方法など、応用力が備わるように執筆しました。あなたの着こなしの背景に何かが見えたとき、人は感動し、美しさは一層輝きを増すことでしょう。